600形
612号 復元旧塗装

3D-CAD + 3Dプリンタ製
9500形を作ったので今度は鹿児島市電の旧型車を作ろう、ということで600形です。500形・600形・700形・800形の中から、鹿児島オリジナル車両の600形を選びました。改造するにも元にできる車両が無いから、という理由です。500形は土佐電から改造ができるし、700・800形は大阪市電2601・3001形が発売されたら作れると思うので。鹿児島市電独特の前に行くにしたがって細くなっていく車体をうまく再現するのがキモ。、

車体はこのように分割。おでこに砲弾型ヘッドライトが載っている上、斜めに水切りが付いているのでその形に沿って屋根と前面を分割。前面パーツは補助ランプを増設してテールライトを更新した現行形と、ガイコツテールと系統番号札挿しが付いた少し昔の仕様の二つを試しにモデル化。



今回新たにパーツの分割をしてみました。3Dプリンタは原理上どうしても曲面に縞々ができるので、細かい凸パーツを分割することで、前面パーツの縞々をヤスリがけできるようにしたというわけです。はめ込みパーツの方が若干小さめの寸法で作ってありますのでぴったりはまります。きつすぎずゆるすぎずという感じですが、塗装後にはめようとするときついと思います。基本的にははめ込んで固定した後に塗装をするのがよさそう。
この小さいパーツもちゃんと成形できてるのがすごい。(設計に失敗して小パーツがバラバラになってしまった)



普通の樹脂成形パーツでもこういう変則的な形を隙間無く組めるようにするのは難しいみたいです。3Dプリンタ製だと、何も考えずに分割してもピタッと隙間無く組めます。継ぎ目の処理が不要なくらいぴったり。



この前に作った3Dプリンタ製の9500形の模型と、透明板で作った1000形ユートラムの模型と。そういえばこれら全て素材がアクリル系なんですね。1000形はホームセンターに売ってるアクリル板、3Dプリンタで作ったものはアクリル系の光硬化樹脂。600形の排障器はまだ作ってないので、とりあえずペイントソフトで描いてみた。
今まで市販の他社の車両を改造したり、プラ板で必死に自作してみたりしたけどどうしても鹿児島市電特有の前にいくにつれ細身になっていくフォルムというのが再現できませんでした。3Dデータなら微妙な曲面を再現することができ、3Dプリンターなら微細な寸法を正確に再現することができます。鹿児島市電の電車の魅力をそのまま模型にすることができるということです。市販品改造だとどうしてもおろそかになりがちだった屋上機器や台車も、ちゃんと実車の通りのものを付けてあげることができます。



プラ板から自作してた頃に一番困ったのは、側面窓上段のHゴムの窓がきれいに作れないことでした。この窓は角が丸まっており、窓ガラスを固定するためのHゴムが少し飛び出た感じになってます。まず角を丸く窓を切り抜くことが難しい。そしてちょこっと飛び出したHゴムの部分を作るのが非常に困難でした。今でもこの部分をプラ板で作れと言われても作れません。
台車もしっかり凹凸の効いた形状が作れてます。写真だとわかりませんが、軸受け部分のカバーを固定してるボルトの頭まで再現されてます。これはどこまででも拡大して立体を設計できるデジタルの3DCADのおかげと、そういう細かいデータをそのまま精密に再現できる3Dプリンタのおかげです。ちゃんと抜けてるランボードも、屋根板と一体成型したもの。



この模型の、というか3Dプリンターで作る模型の一番のアドバンテージはこれ。
ドアの厚みの表現。実車は横に引く扉なので、戸袋があるはずです。扉と車体の間に扉が入る隙間があるわけですね。これが再現できます。樹脂製市販模型だとドアの部分はただ凹んだだけになってるはず。エッチングキットだと薄板を重ねて組み立てるためこの隙間は再現できますが、旧型電車独特の曲面はエッチングキットは苦手です。
ちなみに板厚は1mmで作ってますが、1mmというのはけっこうぶ厚くて、窓のや車体裾の断面が厚くなって格好悪くなります。窓の縁の裏側を斜めにカットすることで薄く見せるようにしています。
エアコンも通気口のパンチングの穴を再現してあります。パーツの上下左右全面に好きにモールドを入れられるのも3Dプリンタならではの成形法によるもの。

最初は「3Dプリンタを使えば昔の板キットもどきくらいのものは作れるんじゃない?」と思って始めたことですが、市販製品以上の表現力があるのでアイディア次第で実車の魅力の再現がいろいろできるようになるのではないかと思います。当然3Dプリンタにも弱点はありますし、3Dプリンタがあれば他は要らないという最強の造形機械ではありません。Nゲージ鉄道模型は昔と比べると市販商品が増えて、キットは減りつつあると思います。それでもなおマイナーでマニアックな車両はキットとして発売はされていますが、鹿児島市電がNゲージキットになることはここ20年くらい無かったはずです。これから先待っててもキットは出ないままでしょう。結局私は、キットそのものを作ることになってしまいました。個人でもそういうことができる時代がやってきました。量産もそれなりに効くので、旧塗装と新塗装とビール電車とカラオケ電車を同じ精度で作るということも可能。

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